Award

Introduction of award-winning works

JABA award for books (Research Encouragement Award)2019

松本雄一「実践共同体の学習」(白桃書房)

ISBN-13 : 978-4561267164

Reason for award

  本書は、学習のためのコミュニティ=実践共同体を学習の「第三の場所」と位置づけ、その構築が組織や個人の学習を促進することを提唱するものである。本書は3部構成になっている。第1部は理論編で、まず複数の理論的背景のある実践共同体の主要な研究、次いで経営学における実証研究、および関連する諸研究を丁寧に検討することで、実践共同体が内包する複数の学習メカニズムと、低次学習・高次学習双方を促進する4つの学習スタイルを明らかにしている。その上で第2部では、学習を促進する実践共同体のマネジメントを考察するため、4つの事例研究を用いている。高度熟練技能者を認定する「自治体マイスター制度」の事例、複数の陶磁器産地の事例、公文教育研究会の指導者の事例、そして介護施設における「学習療法」普及の事例を用いて考察している。そして第3部では、実践共同体の構築には、小規模・高頻度の相互作用を通じて知識創造や問題解決を行う「熟達型」と、大規模・低頻度の相互作用を通じて境界横断と情報共有を行う「交流型」の、2つの実践共同体の類型を提唱している。2タイプを使い分けることで、より学習目的に適した学習スタイルと成果を明確にできるとしている。そして実践共同体間の境界横断と相互作用に基づいた学習を促進する、複数の実践共同体の重層的構築についても提唱している。

本書の優れている点として、実践共同体という従来の経営学があまり分析の対象としてこなかった領域に焦点を当て、理論的検討および複数の事例研究によって考察し、個人学習・組織学習に続く「共同体での学習」を世に問うている点である。理論的検討は学際的な研究群を丹念に検討し、事例研究では4つの事例をそれぞれ丁寧な調査に基づいて構築し、有効な含意を引き出している。最後には実用性を高めるための提言もなされており、研究書でありながら、多様な立場の人が実践共同体についてその構築と利用について考えることができるように工夫されている。

ただし本書には課題も残されている。まず実践共同体を学習のためのコミュニティと位置づけ、その機能を学習面からアプローチしていることで、イノベーションや製品開発といった分野とのつながりまでは論じていない点である。また事例研究の事例そのものが特殊な事例とも考えられる、またその比較研究にとどまっており、定量的な実証研究までは行えていないところも課題としてあげられる。

こうした課題は指摘できるが、本書の学術的貢献は高く評価されるべきものである。課題を克服したさらなる研究への期待も含めて、日本経営学会賞の研究奨励賞(年齢制限あり)を授与するに充分な価値を有しているものと判断される。


JABA award for articles 2019

日本経営学会誌 第42号(2019)

林祥平・森永雄太・佐藤佑樹・島貫智行
「職場のダイバーシティが協力志向的モチベーションを向上させるメカニズム」

Reason for award

  本論文は、ダイバーシティとインクルージョンが従業員のモチベーションにいかなる影響を与えるのか、そのメカニズムを明らかにせんとするものである。先行研究のレビューが行われた後、「H1:ダイバーシティと協力的モチベーションの間で組織的同一化は調整効果を持つ」「H2:インクルージョン行動は組織的同一化に正の影響を与える」との仮説が導出されている。そして、従業員1,000人以上の企業に勤務する正社員(主任・係長以下の職位の者)を対象とする、2回にわたる質問票調査が実施された。その結果、H1は部分的に支持、H2は支持となり、組織的同一化を高めることで職場のダイバーシティの高さをモチベーションに結びつけることが出来ること、組織はインクルージョン行動を実践することで組織的同一化を高めることが明らかとなった。

本論文の優れている点として、まずテーマの社会的意義が高いことが挙げられる。日本企業におけるダイバーシティに関する研究の必要性が今後高まることが予想される中、本論文は将来の議論を刺激する研究となりうると考えられる。研究手続きも手堅く、厳密である。特にコモンメソッドバイアスを回避する手続き、多母集団同時分析を用いた複雑な交互作用の分析、測定尺度についての検討など、学会における今後の類似研究の参考となろう。 分析結果も興味深く、また、インクルージョンを高めることがダイバーシティを成果に結びつけることを示したことは、実践的な示唆も大きいと思われる。受け入れ準備の整わない、急ごしらえのダイバーシティの問題点を指摘する経営者の意見に、学術的なエビデンスを提供するものである。ただし、本研究には課題も残されている。例えば「職場のダイバーシティ」とタイトルにあるにも関わらず、実際の分析は職場のダイバーシティ認知であり、個人レベルの分析となっている。職場レベルの分析へと研究を拡張していく必要があると思われる

しかしながら、この課題は今後の研究において追求されるべき課題であり、本論文の価値を減ずるものでは一切ない。本論文の学術的貢献は高く評価されるべきものであり、日本経営学会賞の本賞を授与するに充分な価値を有しているものと判断される。

List of Successive JABA Awards Winners

▶ JABA award for books

2019年度
研究奨励賞
松本 雄一 「実践共同体の学習」白桃書房
2018年度 高井 文子 『インターネットビジネスの競争戦略:オンライン証券の独自性の構築メカニズムと模倣の二面性』有斐閣
2017年度 宮尾 学 『製品開発と市場創造: 技術の社会的形成アプローチによる探求』白桃書房
2016年度 山田仁一郎 『大学発ベンチャーの組織化と出口戦略』中央経済社
2015年度 なし
2014年度 なし
2013年度 長山宗広 『日本的スピンオフ・ベンチャー創出論─ 新しい産業集積と実践コミュニティを事例とする実証研究─』同友館
2012年度 加藤俊彦 『技術システムの構造と革新─方法論的視座に基づく経営学の探究─』白桃書房
2011年度 なし
2010年度 なし
2009年度 李東浩 『中国の企業統治制度』中央経済社
2008年度 岩田智 『グローバル・イノベーションのマネジメント─日本企業の海外研究開発活動を中心として─』中央経済社
藤田誠 『企業評価の組織論的研究─ 経営資源と組織能力の測定─』中央経済社
2007年度 なし
2006年度 川上智子 『顧客志向の新製品開発─マーケティングと技術のインタフェイス─』有斐閣
2005年度 なし

 

JABA award for articles

2019年度 共著 林祥平・森永雄太・佐藤佑樹・島貫智行
「職場のダイバーシティが協力志向的モチベーションを向上させるメカニズム」
2018年度 加藤崇徳 「技術多角化と技術の時間軸」(『日本経営 学会誌』第 38 号掲載)
2017年度 なし
2016年度 なし
2015年度 西岡由美 「契約社員の人事管理と基幹労働力化―基盤システムと賃金管理の二つの側面から―」(『日本経営学会誌』第36号掲載)

2015年以前の対象は45才以下の会員による執筆論文
2014年以前の履歴については学会ニュースをご参照ください

About recommendations

<2019年度の学会賞推薦受付は終了しました(刊行翌年1月から3月)>


学会賞(著書部門)の推薦について

日本経営学会賞審査委員長  吉村 典久

2019年度の学会賞(著書部門)につきましては、下記の要領にて審査を行います。2018年度以降は理事会・会員総会の審議を経て、従前と変更された点が幾つかありますので、ご留意ください。

【 学会賞の選考対象】
日本経営学会賞(著書部門)、日本経営学会賞(研究奨励賞、著書部門)とも2019年1月1日から12月31日までの間に刊行された会員の和文もしくは英文の著書。
なお、日本経営学会賞(著書部門、年齢制限なし)の受賞作とするか、日本経営学会賞(研究奨励賞、著書部門、著書刊行時45歳以下)の受賞作とするかは、日本経営学会賞審査委員会が判断することになります。

【著書の推薦】
会員は選考対象に適合する「著書」について、刊行翌年1月1日から3月15日まで、自薦・他薦することができます。本学会会員の著書であれば広く推薦することができます。奮ってご推薦ください。

【推薦書】
「日本経営学会賞著書部門推薦書」に必要事項をご記入いただき、日本経営学会事務所(jaba@keiei-gakkai.jp)まで送付ください。学会賞審査委員会においてご推薦いただいた著書が審査対象となるには、3名の推薦(3件の推薦書、自薦または他薦)が必要です。連名での推薦書は認められていません。ご留意ください。なお、自薦の場合には、当該著書3冊の提供が求められます。(ご返還いたしかねますことご了解ください。)

【締切】
2020年3月15日締切 ※今回応募できるのは、2019年1月1日から12月31日までに刊行された著書です。

【ダウンロード】
日本経営学会賞著書部門推薦書

日本経営学会賞規定