日本経営学会賞
日本経営学会賞 歴代受賞者・受賞作
History of the Japan Academy of Business Administration Awards
日本経営学会賞(著書部門)会員推薦についての詳細は12月頃公開予定
Introduction of award-winning works[2025]
2025年度日本経営学会賞(著書部門)研究奨励賞
木村裕斗
『グループ・クリエイティビティ─個人と集団のインタラクションが生み出す変革─』(白桃書房)
● 受賞理由
本書は、集団の創造性を発揮し、組織を革新的に変革するメカニズムの解明を目的としたものである。具体的には、①創造的成果を導くチーム学習、②個人の創造的思考を促す個人と集団の相互作用、③組織の革新性を高めるコミュニケーション方略という3つの研究課題を設定し、因子分析、共分散構造分析、マルチエージェント・シミュレーション、会話分析など多様な手法を用いて、5つの実証研究を展開している。
本書の学術的貢献は、第1に、経営学では希少な高度な方法論を用いて研究課題に多角的に接近した点、第2に、「チーム学習は万能ではない」「動かない方が革新的である」といった通説に反する仮説を提示した点、第3に、チーム学習の三次元構造(オーバーラップ、リフレクション、多様化)を明らかにし、自己と他者の学習行動を分けて測定した点、第4に、資源制約下で選択可能な組織行動への実践的示唆を提示した点にある。
一方、研究課題の設定理由や相互の関連性、大学組織を主な対象とすることによる一般化の限界、創造性における有用性の測定、基盤となる理論への考察には,若干の課題を残している。しかし、これらは本書の学術的価値を本質的に損なうものではなく、むしろ今後の研究の発展を期待させるものである。以上を踏まえ、審査委員会は、本書が2025年度日本経営学会賞(研究奨励賞・著書部門)の受賞にふさわしいと判断した。
●受賞挨拶
木村裕斗
この度は日本経営学会賞(著書部門)研究奨励賞にご選定いただき、誠にありがとうございます。審査委員長の藤岡豊先生をはじめ、ご審査いただいた先生方および本書を推薦いただいた先生方に心より御礼申し上げます。また、日頃から学会・研究会を通じてご助言いただいた多くの先生方、そして本書を世に出していただいた白桃書房の皆様にも改めて感謝を申し上げます。
本書は創造的なパフォーマンスを導出し、組織をより革新的に変革するためのメカニズムについて、多変量解析に加え、シミュレーションや会話分析といった多様な手法を用いて検討したものです。当分野におけるこれまでの研究や実践的な言説の多くは、集団の風土やリーダーシップといった創造性を発揮するための環境要因を探求するものが主流でした。しかしながら、現実的にそのような理想的な条件が整っていることは稀であり、多くの組織は何かしらの不完全さを抱えています。
さらにいえば、創造性とはそもそも既存の価値観を逸脱する性質を有するため、経営者やマネジャーのような上位者や、職場の中核的なメンバーには理解されず、低く評価されることすらあります。そのため、革新を目指すメンバーは往々にして孤独であり、組織という巨大なシステムの壁にぶつかり、打ち砕かれることも少なくありません。
このような現状を踏まえ、本書では集団の特性を所与の条件と捉えた上で、職場の条件に合わせて個人がどのような行動を選択すれば良いかを議論しました。その意味ではどちらかといえば、マネジャーというよりも、現場で悩む一人一人のメンバーにとって助けとなればという想いで、細々とではありますが研究を続けてまいりました。
その原動力となったのは、自身の社会人経験における袋小路のような葛藤と、その時にともに悩み、応援してくれた心ある同僚や家族の支えです。また、一連の研究自体も厳しい旅路であり、数多のリジェクトに袖を濡らす日々でした。それだけに、このような素晴らしい賞をいただけたことは青天の霹靂であり、本書にスポットライトを当ててくださった本学会には感謝の念に堪えません。
これを機に一人でも多くの方に本書を手に取っていただき、ご批判をいただければ幸いです。不十分な点や課題も多々あると自覚しておりますが、研究奨励賞という名称が示すように、今回はそれらに対する叱咤激励をいただいたものと受け止めております。今後も地道に研究に励んでまいりますので、引き続きご指導のほどよろしくお願い申し上げます。
Introduction of award-winning works[2025]
2025年度日本経営学会賞(論文部門)
菅野洋介
「製品開発プロセスに対するデザイナーの関与がパフォーマンスに及ぼす影響」『日本経営学会誌』第57号掲載
● 受賞理由
本論文は、製品開発プロセスのどの段階でデザイナーが関与すれば開発パフォーマンスが向上するのかを、日本の製造業398社のデータに基づき定量的に検証したものである。従来、デザイナーと製品開発の関係を扱う研究は事例研究や概念研究が中心であり、開発段階ごとの関与効果を定量的に比較した研究は限られていた。本論文は、消費財・生産財の双方を対象にしてデータを収集し、精緻な共分散構造分析(パス解析)を通じて、デザイナーが製品の形を作る役割にとどまらず、開発初期の市場調査・分析段階から関与することで大きな価値を発揮することを明らかにした。
本論文は、広範な先行研究レビューに基づく仮説構築、周到な質問票・インタビュー調査、幅広い企業データの収集、精密な分析と慎重な考察を備え、高い完成度を誇っている。とりわけ、市場調査・分析段階からデザイナーが参加することが、デザイン革新性と開発効率性の双方を高めるという知見は、企業の製品開発プロセス設計に実践的な示唆を与える。製品開発理論や経営学理論への考察には若干の課題を残すものの、本論文は当該分野における優れた研究として確実に高く評価できる。以上を踏まえ、審査委員会は、本論文が2025年度日本経営学会賞(本賞・論文部門)の受賞にふさわしいと判断した。
●受賞挨拶
菅野洋介
このたびは、拙稿に対し、日本経営学会賞を賜り、誠に光栄に存じます。審査委員長の藤岡豊先生をはじめ、審査にご尽力くださった先生方に心より御礼申し上げます。また、本論文の査読に際して、建設的かつ貴重なご指摘をくださった匿名レフェリーの二名の先生方、ならびに査読・編集の過程でご支援くださった当時の編集委員長の小沢貴史先生に、深く感謝申し上げます。さらに、質問票調査やインタビュー調査にご協力くださった企業の皆様、研究の過程で貴重なご助言をくださった皆様に、厚く御礼申し上げます。
本研究は、企業がデザインの力を製品開発にどのように活かすことができるのか、という問いに取り組んだものです。企業経営や製品開発活動におけるデザインの重要性は広く認識されるようになっていますが、デザイナーが開発プロセスのどの段階に、どの程度関わることが成果につながるのかについては、十分な実証的知見が蓄積されていませんでした。そこで、日本の製造業企業398社のデータを用い、製品開発の各段階へのデザイナーの関与が、デザインの革新性や開発効率性、さらにブランドや業績に及ぼす影響を分析しました。
分析からは、市場調査・分析や製品アイデア・コンセプトの検討といった、比較的早い段階への関与の重要性が示されました。とりわけ、市場調査・分析への関与は、消費財と生産財の双方で、デザインの革新性と開発効率性にプラスの影響をもっていました。この結果は、デザイナーが顧客のニーズを直接理解し、製品の方向性を考える段階から参加することの意義を示唆しています。
また、本研究では、従来の研究で主に扱われてきた消費財に加え、生産財にも着目しました。生産財では、デザインの革新性が業績に直接及ぼす効果は確認されなかったものの、ブランドの構築・向上を介した効果が認められました。機能や品質が重視される製品においても、デザインが企業や製品の価値を伝え、ブランドを育てる役割を担うことがうかがえます。
これらの知見は、デザインの成果をデザイナー個人の能力だけで捉えるのではなく、その能力を活かす製品開発の仕組みや、他部門との協働のあり方から考える必要性を示すものと受け止めています。企業の皆様から伺った実践上の工夫や課題は、こうした問題を考えるうえで、大切な手がかりとなりました。
今回の受賞を励みに、今後は、デザイナーの関与を支える組織や戦略のあり方にも目を向け、研究を深めていきたいと考えております。デザインと経営をつなぐ知見を積み重ね、学術研究と企業の実践の双方に貢献できるよう努めてまいります。今後とも、ご指導ご鞭撻を賜りますよう、よろしくお願い申し上げます。
日本経営学会賞受賞一覧
▶ 著書部門
| 2025年度 研究奨励賞 |
木村裕斗 | 『グループ・クリエイティビティ─個人と集団のインタラクションが生み出す変革─』(白桃書房) |
| 2024年度 研究奨励賞 |
江夏幾多郎、田中秀樹、余合淳 | 『人事管理のリサーチ・プラクティス・ギャップ―日本における関心の分化と架橋』(有斐閣) |
| 2023年度 | なし |
|
| 2022年度 | 松尾 健治 | |
| 2021年度 | 藤岡豊 | 『⽣産技術システムの国際⽔平移転─トランスナショナル経営の実現に向けて─』(有斐閣) |
| 2020年度 研究奨励賞 |
兒⽟公⼀郎 | 『業界⾰新のダイナミズム−デジタル化と写真ビジネスの変⾰』(⽩桃書房) |
| 2019年度 研究奨励賞 |
松本 雄一 | 「実践共同体の学習」(白桃書房) |
| 2018年度 | 高井 文子 | 『インターネットビジネスの競争戦略:オンライン証券の独自性の構築メカニズムと模倣の二面性』(有斐閣) |
| 2017年度 | 宮尾 学 | 『製品開発と市場創造: 技術の社会的形成アプローチによる探求』(白桃書房) |
| 2016年度 | 山田仁一郎 | 『大学発ベンチャーの組織化と出口戦略』(中央経済社) |
| 2015年度 | なし | |
| 2014年度 | なし | |
| 2013年度 | 長山宗広 | 『日本的スピンオフ・ベンチャー創出論─ 新しい産業集積と実践コミュニティを事例とする実証研究─』(同友館) |
| 2012年度 | 加藤俊彦 | 『技術システムの構造と革新─方法論的視座に基づく経営学の探究─』(白桃書房) |
| 2011年度 | なし | |
| 2010年度 | なし | |
| 2009年度 | 李東浩 | 『中国の企業統治制度』(中央経済社) |
| 2008年度 | 岩田智 | 『グローバル・イノベーションのマネジメント─日本企業の海外研究開発活動を中心として─』(中央経済社) |
| 藤田誠 | 『企業評価の組織論的研究─ 経営資源と組織能力の測定─』(中央経済社) | |
| 2007年度 | なし | |
| 2006年度 | 川上智子 | 『顧客志向の新製品開発─マーケティングと技術のインタフェイス─』(有斐閣) |
| 2005年度 | なし |
▶論文部門
| 2025年度 | 菅野洋介 | 「製品開発プロセスに対するデザイナーの関与がパフォーマンスに及ぼす影響」『日本経営学会誌』第57号掲載 |
| 2024年度 研究奨励賞 |
久保田達也・大沼雅也・積田淳史 | 「専門家ユーザーによるイノベーションへの関与と障壁―医師を対象とした実証分析―」『日本経営学会誌』第 56号掲載 |
| 2023年度 研究奨励賞 |
髙橋宏承 | 「組織構成員の外向性と組織内孤立の関係性」『日本経営学会誌』第 52 号掲載 |
| 2022年度 |
内田大輔・
芦澤美智子・ 軽部大 |
「アクセラレーターによるスタートアップの育成―日本のアクセラレータープログラムに関する実証分析―」『日本経営学会誌』第 50 号掲載 |
| 2021年度 | 平野恭平・ 三井泉・ 藤田順也 |
「経営学部創設期の「落書き」による学生たちの心性史試論-神戸大学附属図書館蔵書を一例として」『日本経営学会誌』第48号掲載 |
| 2021年度 研究奨励賞 |
林侑輝 | 「逆境期における長寿企業の生存戦略-倒産企業との比較分析に基づく類型化」『日本経営学会誌』第47号掲載 |
| 2020年度 研究奨励賞 |
柴野良美 | 「組織⽂化が企業不正に与える影響−企業理念のテキストマイニングを⽤いた定量的実証研究」『日本経営学会誌』第 45 号掲載 |
| 2019年度 | 林祥平・ 森永雄太・ 佐藤佑樹・ 島貫智行 |
「職場のダイバーシティが協力志向的モチベーションを向上させるメカニズム」 |
| 2018年度 | 加藤崇徳 | 「技術多角化と技術の時間軸」『日本経営学会誌』第 38 号掲載 |
| 2017年度 | なし | |
| 2016年度 | 西岡由美 | 「契約社員の人事管理と基幹労働力化―基盤システムと賃金管理の二つの側面から―」『日本経営学会誌』第36号掲載 |
2015年以前の対象は45才以下の会員による執筆論文
2015年以前の履歴については学会ニュースをご参照ください
